Lapis Lazuli 瑠璃色の愛 ~初恋と宝石Ⅵ 気象系
第60章 和也の戦い
「さて。 腹を割って話したいと思いましてね。 今、饅頭とお茶を用意させますゆえ」
外喜の声音がどこか弾んで聞こえて……
(腹のたつ)
翔禾姫様。
(何を思われているのですか?)
無表情で外喜を見つめておられる翔禾姫様。
しかし……私は心の中で。外喜よ。
(お茶の道具を自分から見えない所に置いたのは、間違いじゃないか?)
そんな事を思っていた。
こちら側としては好都合だよな。
ゆずな殿は、一人分の茶を立てている。
そして。おゆりは、音を立てぬよう慎重に。 帯び紐に付けていた巾着を外すと…… 茶壺の中の粉茶を茶ベラにて袋の中に入れて……
(智殿の指示か……)
次に竹筒と……竹筒のような入り口の穴が狭い物に入れやすいようにか。一ヶ所三角に尖らせた、変わった形の柄杓みたいな物を取り出すと……
竹筒に、残っていた 水分を素早く火鉢に捨てたおゆり。
瞬間、 暖められた水が ジュっと…… 一瞬動きを止めた、おゆりとゆずな殿……
小刻みに震えているおゆりを気遣ってか、ゆずな殿が柄杓を取ると、おゆりが竹筒を抑えて……
「 茶はまだか!?」
後ろを振り返る事なく、二人に 声を荒げた外喜。
「 はい。ただいま。申し訳ございません」
謝りながら竹筒に茶釜より、湯を移し蓋をして、しっかりと帯に結わえ付けたおゆり。
(可哀相に……)
(茶か、湯に何か入れられていたら……薬師に成分を調べて貰うのか……
外喜よ。 自分の後ろで行われている動きを一度たりとも確認しないで……
ゆずな殿が、饅頭を一つ懐に入れたぞ。外喜。
そして、おゆりはお茶と饅頭の乗った皿を外喜の前に置いて。
翔禾姫様と雅若の前には、 用意周到だな。おゆりは、部屋より持参して来たのだろう。安全な饅頭を一つ皿に乗せて置いたし。
その様子を微かに微笑みながら見つめていたは翔禾姫様は。
「外喜様。ご一緒に頂きませんか?」
「い、いや、私は今は」
そんなに焦ったら怪しいだろうが。
私が心の中で突っ込んでいると。
(え?)
の方?
外喜が、入って来た襖の外に純梨の方の姿が……
外喜は…… 気付く余裕などないようだ。
天井裏の智殿も気付いたみたいだ。