Lapis Lazuli 瑠璃色の愛 ~初恋と宝石Ⅵ 気象系
第59章 束の間の……
可哀相に足首を捻ってしまったようだ……
「なずな。その足では歩けないであろう? 私がなずなをおぶってやる」
きっと、私におんぶされるなど『なりません!と心の中では叫んでいるのだろう。 けど今は、翔禾姫と、雅若の所に行きたいという気持ちが勝ったのだろうな。
「……はい」
素直に私におんぶされる事を選んだようだ。
こんな時なのに私は内心嬉しくて。
しかし、今後の外喜への対応の為にも聞いておかなくては……
私は気を引き締めると。
「なずな何があった? 何をされた?」
「迂闊にも、 食事かお茶に、腹下しの薬かなんかを入れられたのだと思います……」
一瞬でも、翔禾姫と、雅若様の傍を離れた事を気に病んでいる様子のなずな。
「なずなのせいではないのだから、 気にするな」
「……はい……二人組の痩せた男と、 ガタイの良い男囲まれて。 おめおめ捕まる訳にはいかないと。痩せている方の男を背負い投げしました」
「 待って。何をしたって?」
「背負い投げです」
うん。聞こえてはいるんだが……
よく冗談交じりに、和也と智と。
『いざという時、 恐ろしすぎるほどの行動力で。泣き寝入りなど、生ぬるい方法は選ばないんだろうな』
話し合っていたけど……
「 さすがだな。なずな」
「 勝ちました」
「 そうか」
「 体力を使い果たして。もう一人には負けてしまいました」
涙声で悔しそうに話すなずな。
私は、なずなに背負い投げを食らった男の姿を 想像してしまって……
「ふふ。すごいな。勝ったのか」
「はい。勝ちました」
「頑張ったな」
「怖かった……」
そう呟いてから、慌てたように。
申し訳ございませんっ。 潤様っ。つい……」
それは、私に敬語を使わなかった。という事で謝ったのだろう
「構わない……」
「ぅ、うっ」
可哀相に…… その時の恐怖が蘇って来たのか。私の背中で嗚咽を漏らしている、健気ななずな。
「誰も……私しか聞いていない……」
だから泣きなさい。
「潤様ぁ、 怖かったですっ」
私に、想いを吐き出してくれたなずなが愛しくて。
その想いを受け止めながら私は。 嵐の前の静けさ…… 束の間幸せだったんだ……