Lapis Lazuli 瑠璃色の愛 ~初恋と宝石Ⅵ 気象系
第80章 ただいまお傍に参ります……
「もう、五日間も翔禾姫様と……雅若様にお逢いしていない」
「船は、明後日しか出航しないですしね」
私と智殿は、体術の鍛練中の休憩の合間、地べたに並んで座り、愚痴を溢し合っていた。
(というより、何かしら身体を動かしていないと翔禾姫様に逢えない事が辛すぎて……)
「しかし、翔禾姫は私達に気付かれないように、あの手紙を枕元に置いたんですよね」
「いくら寝ていたからといって……翔禾姫様は、隠密としての才までおありなのか?」
(恐ろしいお方だ)
「お話し中すみません。よろしいですか?」
私と、和也様の会話に割って入って来た男……
(暗号の男……)
あの、外喜との一件以降、殿様に仕えるようになった男。
「……」
「……」
和也様と、二人答えずにいると、特に気にするそぶりも見せずに。
「翔禾姫様に、そのような危ない真似はおさせする訳には参りませんから。私が、皆様の枕元に手紙を置かせて頂いたのです」
(……)
(……)
私と、智殿は返事をする気持ちになれなかった。にも関わらず、秋川信介《あきかわしんすけ》と名乗った男は。
『外喜殿に、仕えるのが心底嫌になったのですよ。あの日に。 会議をサボった際に、なずな殿が拉致され、翔禾姫と雅若様はお茶に誘われ、 ボヤ騒ぎまで起きた。 家臣たちは 会議の為に皆、集まっているのにですよ。調べれば、誰の仕業か直ぐ分かる事なのに。翔禾姫様と、雅若様のお命まで狙って。 愚かな人に仕えるなど 冗談じゃないと思いました』
聞いてもいないのに、告白をぶちかましてくれて。
言うだけ言って、鍛錬に戻っていった信介殿を見ながら、私と、和也様は。
「いくら、櫻井家が造船技術に優れ、立派な船を所有していても。良く殿様が、翔禾姫様と雅若様の旅立ちを許したなと思っていたんだ」
「本当に殿様がお話しして下さった時、信じられませんでしたよね。櫻井家の所有地だといっても、舟で一日半掛かる場所に……なんて」
『私は、翔禾姫様と雅若様を護衛して、無事、島にお送りする役目を仰せ遣ったのです。殿様は、櫻井家の誇る水軍の中から、 特に海に詳しい者、船の操縦に長けている者をお遣わしになったんですよ』