第16章 覚醒のトリガー
しゃがむほうが立っているよりは少しマシ。整髪料で整えられた髪を掴み、もう片手で肩に触れた。
なんだか、すっごく腹が立ってたのがみるみる楽になっていく。煮えたぎるような熱い怒りはこの時の為の力だったんだなって。
ははっ、と私は笑い声を漏らしてた。
「なにを、するつもりで…?私に命乞いでもさせるつもりですか?」
『命乞い?私の顔見てそんな事言ってんの?私はさ、あんたがやった事に付き合わされて嫌な記憶をしちゃったワケよ?』
嫌な記憶、とボソリと呟くボスの声は少しかすれていて。朦朧としてる瞳。
こいつはどれだけの悪行を重ねていたんだろう、と呆れた。
『忘れたの?実験だよ、実験。
あんたがさ、裏切った仲間にやり続けた実験。あんたと違って私、お喋りの時間が惜しいからさっさと始めるね?
ええと…首はどれほど着いていれば生きていられるか。だったよね』
その光景を実験した側の視点で思い出したのか目を見開き私を見上げるリベルタのボス。
その実験は私だけでも可能だった。刀なんて要らない、ふたりも要らない。私ひとりで十分だから。
「ハルカ…やめな」
『悟も見ておいたら?この実験はね、フェーズ4まであるんだ。フェーズ4になったら跳ねた首を叩いて、拾ってもう一度くっつけて治療可能かを実験すんの。私はそれを手伝わされて、無理に殺人に加担させられた。今でもさ、夢に見るんだよ……』
何か言いそうな口元がうっすらと開いたけれども返事は待たない。
じゃあ始めるね、と髪を掴んだままに肩に触れた手で術式…"罰祟り"を発動する。
『フェーズ1』
地を這う男の首に赤い線がスッ、と入り、入った方向にプッ!と鮮血が飛び散った。
「がはっ!」
即座に式髪で切断した首のみのダメージを回収する。出血は止まり荒い呼吸のボスを確認して実験は進んでいく。
そして私の身体から発熱と蒸気。それでも私はこの復讐を止めることが出来なかった。