第16章 覚醒のトリガー
「あっ…、ああ…!俺の、俺の腕がァァー!!」
「パルスッ!?」
注意が一瞬にパルスに向いた瞬間に私に一番近い首根っこを掴む手にぺた、と触れる。太い指、逞しい手ではあるけれどどれほどの人間を痛めつけて殺めてきたんだろうな、この男は。
呪いの可視・そして呪具を使うボス、彼もボスを務めるに何らかの呪術は使えるだろうけれどまずは刀が邪魔だった。私を捕らえる手も。だからこそ使えなくすれば良いんだって事で。
ブツッ……
──パルスと同じく私はリベルタのボスの腕を奪った。
掴む力が弱まり、腕も無くなった。背後でドチャ、と足元に腕が落ちる音と前方で首筋に切っ先がつぅ…と肌に傷を付けながらカシャン!と刀がタイルに落ちていく騒がしい音。落ちても奇跡的に柄をしっかりと掴んだままの腕。私を掴む手も命を脅かそうとする手ももう無かった。
『散々に仲間の腕を斬り落としたんだ、自分に返って来ないとでも思った…?』
「とんだ、隠し玉を……っ!ラブ…っ貴女は…!」
七海の着用する明るい生地に似たスーツが両腕部分が血に染まり、そして袖がひらひらしている。中にその腕がもう無いから。
何も自分にリスクが返ってきてなかったらざまあみろ、だなんて言葉を吐き、高笑いでもしてやろうと思ったけれどそうはいかない。
負を吸い取り、身体が覚えそれを吐き出す行為にはデメリットが身体に返って来ていた。
『うっ、………くぅ、』
まだ。
まだ足りない。やり返し切れてない。腸が煮えくり返る程に怒りがどんどん湧き出してる。
ズキズキと痛む頭を片手で抑え、私の側で痛みで呻き、前かがみになるパルスのその腹に触れてから背を片足で蹴り飛ばす。
もう、パルスの使役していた呪霊は彼の指示になんて利かない。頭がない呪霊では余裕なのか、ちら、と見た感じだと一番苦戦していたであろう夏油の呪霊と戦う、パルスの呪霊は攻撃を受けやすくなっていた。きっと祓われるのも近いと思う…けれど……。