第2章 視界から呪いへの鎹
目を開けるとそこには涅槃の格好をしてじっと見ている悟がいましたとさ……。
……で、なんで朝から目の前にいんの?
「おはよ」
『なんっで布団に潜ってんのっ!?』
同じ布団だ。敷布団は動かされていないっぽい。私側の掛け布団を捲ってちょっと被っている程度。
昨晩の月明かりよりも室内がよく見える明るい日の光が……そのただでさえ見た目"だけは"良い男の髪をキラキラとさせている。惚れっぽい女の子だったら見ただけで失神でもしそうだ。
私は失神はせずとも寝起きの心臓に悪い。
寝起きの為か、まだ元気いっぱいではないらしく、クックック、と力ない様子で小さく笑った。
「キミって本当に反応が面白いよねぇ、からかい甲斐がある。起きそうだったからこうやって…布団に潜っただけだよ?それに……今はちょっと静かにして?」
『……っ』
身を捩ってより私に密着する、それだけじゃなくて布団の中で片腕が引き寄せられて昨日以上に近い。そんなに近付いちゃ私の心音が伝わってしまいそうだから止めて……!
『くっつき過ぎ、』
しっ、と黙るように言われ、それ以上言いたいことを飲み込み私は悟の腕の中で黙った。肩まで掛け布団を掛けられて、囁くように"寝ているフリしてな"と言われて……、一体何故?
困惑する私に聞こえてくるのは、私の背後の方でトッ…トッ、トス、と徐々に近付く音。失礼します、という祖母の声と襖を開けるスゥー、という物音…。
「お早う御座います…、朝食の準備が出来ておりますのでいつでもおあがり下さい」
祖母だ。私の背の向こう、控えめの話し声が聴こえてる。
悟は少し顔を上げて、満面の笑みで祖母の方向を見ている。
「おはよーさん、ハルカが服とか着終えて準備出来たら行くね」
「……左様ですか。最中に失礼いたしました」
スゥ、カタンと襖の控えめに締められた音。足音が遠ざかっていく…。
そういう事か、昨晩はお楽しみでしたね、と思わせる為のフェイクだったんだ、龍太郎の件もあったから……。結構やるな、この人。
関心しながら綺麗な瞳をじっと見ていると視線が完全に私を向いた。悪戯小僧のように笑う口元(いつもの事だけれど)。
「──そうだ、せっかくだし…」