第1章 おかえりえっち
「お帰りなさい。お疲れさま」
「ただいま、」
大人気プロヒーロー爆豪勝己、私の夫が1週間ぶりに任務から帰ってきた。
「今回もおつかれさま。ちょっと寂しかったよ」
私が素直に気持ちを言葉にすると、
「ンなこと俺もだ」
珍しく素直に返してくれた。
きっと疲れているのと、彼も寂しかったんだと思う。
「ふふ、ごはん急いで作るね」
「ありがと」
勝己くんは荷物を置き、コートをかけて、キッチンで夕飯をつくっている私の所までやってきた。肩にあごを乗せて、後ろから体に腕を回してくる。
――やっぱり任務大変だったのかな。
疲れているときにだけ見せるこのかわいい仕草は、私しか知らない。そう考えると頬が緩んだ。幸せなひとときは不意にやってくる。
「……ほらぁ、包丁使ってるのに」
離してもらおうとすると、もっと強く腰を抱かれてしまう。
「久しぶりに帰ってきて拒否されたかねェよ」
まあいいや。久しぶりで疲れているみたいだし。
人参に包丁を入れる。
「…お、肉じゃがか?」
「うん」
「久しぶりのの手料理だな」
「でも離してもらわないとご飯にできないよ」
まだ離してくれない。
「やっぱり飯よりもがいい」
これを素で言えるとこも、勝己くんの怖いところ。
「わかったから。離してよ」
私が言うと、勝己くんが腕を離して私の目を見つめた。
「…おい、なんか冷たいなァ」
きれいな赤い目に見つめられる。
目を逸らして言った。
「そんなことないよ。ずっーと大好き」
勝己くんは少し笑って私に言った。
「じゃあ確かめなきゃな。夜……」
「……もう、ばか!」
ただシたいだけだったのか。
「夕飯早く作ってな」
勝己くんが言う。
「…うん」
もう、勝己くんったら。
私は人参の最後の一切れを、ストンと切った。