第14章 12月(翌朝)
「あ、朝食食べるより寝てたいんだっけ?」
「私、そんなことまで自己紹介してるんですか?」
いろんな意味で自分に引くわ。
「自己紹介って(笑)
これは~いつか飯食いにいった時、に聞いたのかな?」
「黒尾さんってすごいですね」
「なんで?」
「私は自分で言ったことも覚えてないのに、覚えてくれてて」
「だって好きな人が言ってたことデスから」
こういうのにも、いい意味で少しは慣れてきた気がする。
「ちなみに私も、自分のことは覚えてないですけど
黒尾さんのことなら忘れる気がしません!
………あ」
「え、なに?」
「いや、振られて落ち込んでた時、黒尾さんが食事に誘ってくれたの忘れてたな。って思い出しました。
これはカウントされますか?」
「付き合う前だからいいんじゃない?」
笑いながら適当そうな返事が返ってきた。
自分で作ったご飯だけど
黒尾さんと一緒に笑いながら食べる朝食は、特別美味しく感じた。
片付けて準備して着替えて。
二人で一緒に家を出る。
先週デートはしたし、昨日の夜にはスッピンを披露して
そして同じベッドで寝て、
黒尾さんのドキドキするような言葉に、も少しずつなれてきているけれど。
スーツ姿の黒尾さんの横を、仕事着で仕事に行くために
一緒に駅に向かって歩いていることが、どうしようもなくこそばゆかった。
ちなみに休みといえど、私たちのように休日出勤している人も少なくはないから。
流石に同じタイミングで出社するのは気が引けたので
黒尾さんにはコーヒーショップで少し時間を潰して出社してもらった。
ただ、さおりには昨日と同じ服装だとバレて
あのまま結局お泊まりしたことを報告した。
というかせざるを得なかった。
ついでに黒尾さんから手を出されず、拍子抜けしたことも。