第8章 海で
「黒尾さん?」
「ん?」
「私の話。聞いて、くれますか?」
「もちろん」
そう切り出してくれたけど、なかなか話し出せないような佐藤。
別に焦る必要なんてないから。佐藤が話したくなるまで黙って待つ。
「……座る?」
「……はい」
砂浜の終わりはきれいに階段が整備されていて、そこに二人で腰掛ける。
黙って二人で海を眺めた。
冬の刺すような海風は、容赦なく俺たちの横を通り過ぎた。
ただ、いつの間にか沈みはじめた太陽が、淡く海と空に色を与えて。
綺麗で、ずっと眺めていられる気がした。
「私、この前黒尾さんに気になってるって言ってもらえて。
あの時は本当にそういう風に考えたことがなくって。
だから、この1週間。黒尾さんのこと、そういう風に?っていうか。
……うーん。言葉にするのは少し恥ずかしいんですけど。上司の黒尾さんじゃない黒尾さんのこと、見てました。
そしたら、まぁわかりきっていたことではあるんですけど。
黒尾さん、かっこいいなぁ。って」
佐藤の言葉に、少なからず期待してしまう。
「そして一緒に仕事をする黒尾さんも、あと、ここ最近、ご飯を食べに行ったり、今日。私の側にいてくれた黒尾さんも。
優しくて。
黒尾さんって、本当に素敵な人だなって思いました」
「……ありがとう」
「でも、私。こんなんじゃないですか。全然、吹っ切れてなんかいなくて………」
佐藤の言葉が詰まる。
「……俺は、それでもいいと思ってるけど?」
「……え?」
「この後、佐藤が何を言おうとしているのかは、わからないけど。
だけど俺は、今、佐藤が抱えてることも全部。それでいいと思ってるよ」
「………私には黒尾さんは。もったいなさすぎると思います」
「なんで?俺が佐藤がいいって言ってるのに?」
「………。」
ダメだ。余裕がなさすぎて、キツく言葉が出てしまった。
「………ゴメン。キツい言い方した。
だけど、俺は佐藤のことが好き。ずっと、好きだった。
佐藤は、俺と付き合ったりとか、できない?」
俺の3年間の片想いは今日で終わる。
断られたら。
ウン。
今度は、諦める。