第73章 海で(黒尾)
そうなんだよなァ。
プロポーズにあんまりいい思い出がないこともあるのか
プロポーズはいらないって言われた時は
どうしようかと思ったけど。
だけど、やっぱりちゃんと伝えたかったし
プロポーズの思い出が、俺じゃない別のヤツなんて
そんなのイヤだし。
だから
「んーーーー。
ちょっと立って?」
何度も想像したプロポーズのシュチュエーション
朝の海
俺たちしかいない
天気は快晴
渚が光る
………俺の
一生に一度のプロポーズは
ここみたい。
お尻の砂を払う奈々を待って
こっち。
って、俺の方を向かせて。
両手を
取って。
「…………奈々?」
奈々の背筋が伸びる。
「………はい」
「俺と、結婚してください」
何度も何度も
頭の中で繰り返したこの言葉
声が、震えた。
「……………はい」
小さな小さな声。
なんなら波の音の方が大きい。
だけど、ちゃんと届く。
「………ホントに?」
体の力がフッと抜けた。
「やっぱりやめときますか?」
「絶対にイヤ」
二人で笑い合いながら
目の前の奈々を抱きしめる。
あーーーーーーー。
ヤッベーな。
あーーーーーーー
………泣きそ。