第59章 5月中旬(海)
まぁ、自分でもわかってる。
「また別の日に」じゃなくて「どうしよう?」って
自分のことなのに、聞き方がおかしい。
でもでも、見に行ってみたかったんだもん。
なんか、時期とか
あと他にもいろいろあるみたいで
今日がダメなら時期中に何度かリベンジしたいし。
だったら早いうちにチャレンジしときたいじゃん?
で、アキくんなら
そう言ってくれるんじゃないか?って。
なんか、ウン。
嫌なヤツだなって思う。
でも他の人にはそんなこと言わないし。
じゃあアキくんならいいのかというと
そうじゃないのもわかってるし。
自覚があるから、大目にみてください。
相変わらず、ボーッと窓の外を眺めて
このまま また
目を閉じてしまいたいのを我慢して
少しずつ頭の中がハッキリとしてくる。
カチカチカチカチ
規則的な音が車内に響いて
その音と共に、車が左折する。
細い道を少し進むと
突然だだっ広い空間が現れて
スーーーーッと
車が静かに停止する
………………。
あたりを見渡す
真っ暗闇の中
一定の間隔で街灯が明く灯っていて
そして、その中でひときわ明るく自販機が
白く、光っている
……………。
「運転、ありがとう」
「どういたしまして。よし、行くか」
「………うん」
「まだ眠い?」
呆れたように笑われる。
「うん。ちょっと」
おかげさまで、寝不足だった頭はだいぶんスッキリしたけど
誤魔化すように、嘘をついた。
「なんか飲む?」
「………いい」
「でもどーせお前、後で喉乾いたとか言うだろ?」
そう言いながら、お茶のボタンを押して
そして、コーヒーのボタンを押すアキくんを
少し、離れたところから眺めた。
一年半前
黒尾さんがミルクティとコーヒーを
買ってくれたその姿と、重ねながら。