第51章 誕生日
テーブルの上に乱暴にほったらかされたバッグの中から、スマホを取り出す。
もうちょっと、寝ようかな。
なんて
そんなことを思いながら、ホームボタンを押すと
突然目に飛び込んできたその文字に
身体が強張り、
思わず息を飲む。
"黒尾鉄朗"
久々に見たその名前
もう見ることはないと思った、その名前
愛おしくてたまらない
その名前
だけど今は
ただただ私を苦しくする
その、名前
2ヶ月以上ぶりに見たその人からのメッセージは
たった一言
【お誕生日、おめでとう。】
……………。
いったい何のつもりなんだろう。
意味、わかんない。
………ほんと、最悪。
わざわざ誕生日に思い出させないでよ。
いや、誕生日だからって送ってこられてるんだけど。
だけど、私が今までどれだけ苦労して
あなたのことを忘れる努力をしてきたと思う?
そんなの知らないし、
関係ないことだということもわかっているけど。
ただ、
なんでこんなことするの。
って。
ただ、
苦しい。
そっとベッドから出て
身支度を整える。
…………これだけあれば、足りるよね。
お札を一枚テーブルに置いて
音を立てないように気をつけて
そっと、部屋を出た。