第45章 9月1日
もう一度深く、深呼吸
………よし。
落ち着いてきた。
うん、大丈夫。
そっとロックを解除して、
アプリを開いて。
その名前をタップする。
【遅くなってごめん。
わかった。そうしよう。
こちらこそありがとう。】
…………3行だけ
先に送ったのは、私なのに。
同じ3行だけの返事に
その無機質な文字に
体が震える。
"もしかしたら"
"黒尾さんなら"
こんな文字だけを送る私に
ちゃんと会って、話そうって。
そう言ってくれるんじゃないかって。
そしたら私は "渋々" 会って、
"ごめん" って謝る黒尾さんを許す?なんて。
"もしも、そうなったら"
なんてことを考えていて。
だけど "もしも" は起こらなくて。
ねぇ、黒尾さん?
黒尾さんはどんな気持ちで
この3行を打ちましたか?
少しは、悩んでくれた?
考えてくれた?
それともホッとした?
私はどうしようもない
これ以上ない苦しさの中で、
やっとの思いで打ちました。
先に送ったのは私なのに。
でもこんな、
心の中では何を思っているのかわからない
表情が見えない文字ではなくて、
ちゃんと会って
顔を合わせて、
目を見て。
だけど、
もう遅い。
いつの間にか暗くなったスマホの画面に
ただポタポタと私から落ちる涙だけが広がった。