第17章 願い
真夜中
明かりの消えたリビングのソファでタケルが考え事をしていると
ふと、気配を感じた
顔を上げると
薄暗い廊下にチサトの姿があった
「……」
チサトはタケルがいることには気付いていない様子で
フラつく足取りでリビングを横切り、窓の方へと歩いて行く
カラカラとベランダに通じる窓を開けて外に出ると
そのまま柵に手を掛け、階下を覗き込んだ
ぐらりと傾いた身体を
タケルはギリギリのところで捕まえた
「…………チサト……?」
名前を呼んだ声は震えていた
『…………ゃ…………………離………して……』
抱きしめる腕から逃れるようにチサトは身を捩った
『……………カヲルさんの所へ………行かせて……?』
タケルは首を横に振った
「……チサト……ダメだ…」
『………カヲル…さんに………会いたいの……』
「……っ…」
『………タケルさん……………離し…て…………お…願い…』
「……………出来ない………………ゴメン……チサト…」
タケルの返事を聞いたチサトは
失望したようにガックリと床に膝をついた
しばらくの間、放心したようにその場に座り込んでいたチサトが
不意にタケルの腕を掴んだ
『………タケル…さん…………………カヲルさんに……会わせて…』
「………ぇ…」
『……………もう一度だけ…………抱きしめて…欲しいの……』
「……」
『……………一度だけで…いいから……っ…』
「…………チサト……」
泣きながら懇願するチサトの姿に
タケルは胸が締め付けられた
「………………………分かった……」
静かな声でそう言うと
タケルはチサトを抱き上げ
カヲルの部屋へ向かった