第16章 訪問者
カヲルのベッドに横たえ
毛布を掛けてやると
チサトはタケルに背中を向け
小さく膝を抱えた
何かを思い出したように
身体を震わせる
タケルの目には
そんなチサトの姿がかつての自分と重なって見えた
「……」
タケルは宥めるように
チサトの髪をそっと撫でた
昔
母親がそうしてくれたように
優しく言い聞かせる
「……チサト………いまは目を閉じて…少し眠るんだ…」
『……』
「…………ゆっくり……息を吸って……」
言われるまま
チサトは大きく息を吸った
『……………カヲルさんの…匂いがする…』
繰り返される呼吸が
いつの間にか
小さな寝息に変わった
あの雑誌が
チサトがカヲルの死を受け止めるためのきっかけになるなんて
夢にも思っていなかった
けれど
これで良かったのかも知れない
現実に向き合う事ができたら
あとは時間が解決してくれるだろう
チサトの涙に濡れた頬を見つめながら
タケルは
そんな事を考えていた
眠ってしまったチサトを起こさないように
タケルはベッドから降りると
カヲルの部屋を後にした