第6章 呪いの享受③
私の話はそれで終わり。
その人はもう二度と、私の前に現れることはないから。
私の話を、五条先生は黙って聞いてくれた。
静かに、何も言わずに。
「もう誰も、私のことを守ってくれないんだって。……もう私に優しくしてくる人はいないんだって」
諦めて、また同じように呪われた私の前に。
五条先生が現れた。
あの人と同じように、五条先生は私に手を差し伸べてくれた。
「五条先生」
いけないと分かっているのに。
私は五条先生の胸に顔を埋めた。
「五条先生は……いなくならないで」
もう、あんな思いはしたくない。
ギュッと握りしめた拳に、落ちた雫が滴り落ちて、五条先生の胸を濡らした。
「私、強くなります。……守られるだけじゃない私になりますから」
誰に何と言われても。
不平等に守られるわけにはいかない。
頑張るから。努力するから。
強くなって、五条先生の世界で、心の底から笑えるようになるから。
「だから、五条先生は……そばにいて、ください」
呪われた身体は、これ以上を望んではいけないのに。
私は都合のいい言い訳を並べて。
最強の先生に、最悪の足枷をかけた。
「じゃあ僕からもお願い」
それでも笑顔をくれる五条先生は、やっぱり優しすぎるんだよ。
「……もう一人で溜め込まないで」
五条先生が私の肩に触れる。
「……大丈夫、この行為はやましいことじゃないから」
五条先生の唇が、また私の唇と触れ合う。
こんな時に限って。
お互いに、本当の心は隠して。
「……アイツもきっと、それを望んでる」
五条先生の瞳には揺れた私の瞳が映ってる。
ああ、やっぱり。
五条先生は、あの人のことを知ってたんだ。
そうしてまた重なった唇は、嘘の味がした。