第3章 はじめての平穏
今日から新しい学校。
知らない場所に行くのは、やっぱり緊張する。
そのことばかり考えて作った朝食は、塩加減を間違えたので我ながらなかなか酷い出来だった。
「皆実、僕を高血圧で殺す気?」
「そのときは私も高血圧です。自己紹介とかどうしよーって考えてたら塩の入った瓶がひっくり返りました、すみません」
「そういうときは作り直そうね」
「食材がもったいないので」
以降も一口食べるたびに酷評をいただいたけど、今日は完全に私が悪いので素直に反省することにした。
文句言いながらも全部食べてくれたのは意外だった。
「ひー、舌が痛い。皆実、水」
「はい、どうぞ」
五条先生に水の入ったコップを手渡し、私は自分で作ったカフェオレを持って向かい側に座った。
甘めのカフェオレをコクコクと、飲む。
でも向かいに座る五条先生はなぜか、水を飲まずに固まってる。
「どうしたんですか」
「いやいや、こっちのセリフね、それ。なんで僕は水で、皆実はおいしそうなカフェオレなの」
「自分で水って言いましたよね」
「カフェオレあるとか知らないから」
「……作りますね」
私が立ち上がろうとすると、五条先生が私のコップを奪った。
そしてゴクゴクと、飲み干して。
「ふー、美味しい。塩辛さが中和される」
「……私のカフェオレ」
「作ってるの待てないもん、僕」
(子どもか)
「皆実」
「毎度人の思考読むのやめてください」
「読んでくださいと言わんばかりの顔をする皆実が悪いよね」
いつもそうだけど。
今日は一段と絡んでくるな、この人。
でもいつもより、絡み方が冷たい……気がする。
ご飯のせいかな。いや、違うか。
『先生のキスは……嫌じゃ、なかったです』
(やっぱ昨日、あんなこと言わなきゃよかった)
変な意味はなかったんだけど。
少しだけ昨日の自分を責めたくなった。