第2章 流呪操術
唐突に触れられた数日前のこと。
五条先生は何も気に留めてないのだと思っていた。
だってあの時の五条先生は私のためにキスをしたんだと思うから。
次に目が覚めた時、びっくりするくらい身体が軽くなって、身体を刺すような痛みも消えていたから。
なんで私は、私を助けてくれる人に謝らせちゃうんだろう。
「……気にしないでください。……五条先生の言うとおり、初めてじゃなかったので」
私の答えに、五条先生の肩が揺れた。
あのとき、どうして五条先生がその事実を知っていたのかは分からないけど。
「ファーストキスはちゃんと好きな人とした?」
ファーストキス、なんて言ったらロマンチックな響きで。
あの日のことをそんな例えにしていいのか、分からないけど。
「……はい」
でもそれは恋愛感情とは程遠くて。
その感情が憧れと信頼の域を越えることはなかった。
「そっか。……なら、よかった」
五条先生は小さく笑うと、私に背を向けた。
それでいいのに。
その行動が寂しいなんて、思ってしまう私は、五条先生に毒されてる。
「五条先生」
「んー?」
これは言わないほうがいいって。
分かってるけど。
「先生のキスは……嫌じゃ、なかったです」
そう伝えて、私も五条先生に背を向けた。
触れ合わない距離で。
でも確かな温もりを感じていた。