第20章 呪胎戴天
窓の外、見上げた空は薄暗い。
ポツポツと、小さな雨粒が空から落ちてくる。
(今日は雨、か)
もう7月。
梅雨も終わりかけというのに、じめじめとした空気が漂ってる。
(この時期は呪いが多いんだよね)
呪いの量と質は季節にも左右される。
冬から春にかけて起こる自律神経の乱れや気温差による体調変化、特有の花粉症の後に訪れる五月病、そしてその後の梅雨。
これらすべてが明ける頃、陰気が呪いとなって押し寄せる。
(しかも、結構痛いんだよね)
私が吸収できない場所であれば、強力な霊となって形になるだろう。
等級で言えば、2級以上がわんさか。
だから2年の先輩たちも遠征任務から全然帰ってこない。
特に、こういう時期の呪いは呪い自体が不安定。
等級が秒刻みに変わる呪霊もいるって五条先生が言ってた。
当然、格上の敵に対して格下の呪術師を送ってしまったなら、すぐに適した呪術師を派遣しなければならない。
だからすべての尻拭いが可能な特級呪術師様は、忙しそう。
「1級呪術師が失踪、ねぇ」
五条先生が電話をしながらため息まじりに呟いた。
おそらくこの電話も、その手の話なんだと思う。
「僕今超絶忙しいんだけど」
ソファーに座って、優雅に食後のカフェオレを飲んでるだけのように見えるのは私の幻覚かな。
私は自分の分のカフェオレを用意して、五条先生の隣に座った。
ちなみに目の前のテーブルには五条先生のリクエストで作らされたクッキーが用意してある。
「あーハイハイ、分かったよ。その代わり、移動車に僕のお気に入りのお菓子用意しといて。あと新発売の季節限定のアレ。……え? アレはアレだよ、分かるっしょ。んじゃ迎えよろ〜」
五条先生はのんびり言って、通話を切る。
そして手足をソファーからうーんと投げ出して、ソファーにもたれた。
ソファーからこんなに身体がはみ出す人っているんだ。
「あ゛ーー……また出張だって。今月入って何回目だよ」
そう愚痴って、五条先生が私の手作りクッキーに手を伸ばす。
手にしたのはチョコチップクッキー。
サクッと音を立てて、五条先生がモソモソとクッキーを咀嚼した。