第13章 自分のために③
鼻孔に残った、綾瀬の香りが俺の体を巡ってる。
それは本当に毒みたいに俺の全身を廻って。
≪伏黒くん≫
俺のベッドの上、綾瀬が俺に跨るようにして俺を見下ろしてる。
絶対にありえない光景。
あの綾瀬がこんな積極的な行動をとるはずがない。
(夢、だな)
眠る寸前に綾瀬の香りを吸ったから、その名残みたいなものだろう。
あとは俺の願望、か。
≪私、元気になったよ≫
嬉しそうに知らせてくる。
こういう報告は現実の綾瀬もしてきそうだ。変なところが律儀だから。
そして綾瀬は次にこう言うだろう。
≪迷惑かけて、ごめんね≫
俺の想像通りに綾瀬は告げる。
そりゃあ俺の夢だから当然なんだろうけど。
≪伏黒くんも≫
顔をそらした俺に、綾瀬がグイッと顔を近づける。
やけに鮮明な花の香りが俺の頭を支配した。
「元気になって、よかった」
そう言って嬉しそうに笑う綾瀬は、無防備という他なくて。
(どうせ夢なら……)
俺は綾瀬の腕をとって、そのまま抱きしめた。
「きゃっ!」
か細い声が、俺の胸の中で消える。
俺の想像通りに、夢の中の綾瀬はいじらしく身じろぐから。
その反応が俺の加虐心を煽った。
「綾瀬……」
綾瀬の胸に顔を埋めてみた。
細身のくせに、抱いた背中も、胸も、触れるすべてが全部やわらかい。
それも俺の願望なんだろうけど。