第3章 迷走
「あ、でも一応ポケモンたちと相談してきます!」
それでは!とは清々しい笑顔で去っていったのをキバナはぽかんとした表情で見送った。自分の手の中にあるカードを見て「マジか」と言葉をこぼした。
「おーい、ロトム」
「ナニロトー?仕事ハ終ワリロト?」
ポケットでおとなしくしていたスマホロトムは呼ばれるとすぐにキバナの周りをふわふわ飛びだした。
「・・・ああ、そうだ。ローズさんにメッセージ送ってくんね?"例の彼女が出場します"って」
「了解ロト!」
自分の周りに浮かんでいるロトムスマホをぼんやり見つめながら、さっき去っていったを思い出した。
「すっげー単純じゃねーか・・・あー」
キバナは自分の手で顔を覆った。
ローズに電話で「君は君のファンらしいので、きっと君の古いカードを出せば出てくれると思いますよ」と言われ、半信半疑だったが彼女は驚くほど簡単に「出る」と言ってくれた。
「なんか騙してるみてーで悪いっつーか、やっぱローズさん怖えわ」
申し訳ない気持ち半分と、ジム戦を勝ち抜いて自分のところにまで来るかもしれない少しワクワクした気持ちが半分。
そして、
(俺さまのファン、か・・・なのに勝ってダンデのところには行かさねぇとか思っちまってる・・・)
本人の口から聞いてはいないが、始終顔を赤らめていたことは知っていたし、何よりキバナは鈍い方ではなかった。
「俺さまって罪な男だな、なーロトム」
「ロト?」
(俺さまのカードであんな喜ばなくても・・・)
よくわからないモヤモヤした気持ちが広がり、キバナはテーブルに顔を伏せ、誰にも気付かれないようにため息をはいた。
その様子を、ロトムが不思議そうに見つめていた。
そして数分後、レジへ向かうと全ての支払いが済まされていたことに気が付き、更にモヤモヤしたキバナがいたとか。