第10章 チャンピオンカップ
「徹底光線を受けなかったことが勝敗の別れ目でしょう…あの技は自身の半分の体力を減らす----影の中に隠れる、ゲンガーにかできない戦法でしょう」
キバナの隣に座っているネズも、先程のバトルを見て冷静に分析していた。
「見ましたか、ゲンガーが影に隠れる瞬間を」
「…ああ、ギルガルドが徹底光線を放つ前のマジカルシャインだろ?ダンデとギルガルドの視線から一瞬見えなくなった時だ…あーーダンデ、しっかりしてくれよ」
「--まだ一体目じゃないですか」
ネズは呆れた視線をキバナに寄越すと、キバナはムッと口を尖らせてネズに振り向いた。
「アイツを負かすのは俺さまだって決めてたんだよ!俺はダンデのライバルだ…だからここで負けることは絶対許せねぇ」
(…こいつ、めんどくさいダンデのファンかよ…)
要はキバナは悔しいのだとネズは気が付いた。この男がどれだけダンデに勝ちたいと願っているか、そのためにどれだけの努力を注いでいるか、ガラルでそれを知らない人物はほとんどいない。
今年はイレギュラーのの参加により、チャンピオンカップを奪われてしまった。が並大抵のトレーナーではないことも知っているため、落ち着いているように見えて、内心はそうではない。
「彼女を引きづり込んだのは自分のせいだとかほざいといて、ダンデに勝つことは許さないなどと…傲慢すぎませんか」
「…別にそこまでは思ってねーよ…」
「なら、見守ってやるんですね…それが敗者にできることです」
「…お前もその”敗者”だろーが」
「……あぁ?」
ネズはキバナの最後に呟いた言葉に、普段聞くことのない不穏な声が漏れ、キバナはヒヤリとした。元々眼光が鋭いネズの目は、更に鋭くなり、普通の一般人が見れば、凄みが効いて逃げ出したくなっただろう。さすがスパイクタウンの出身だ。
「喧嘩なら買いますよ、キバナ」
「ああ、来いよ。ボコボコにしてやるぜ」
喧嘩と言っても、もちろんポケモンバトルでだ。キバナとネズが静かに睨み合っていると、その様子を大人しく見ていたエレズンは、やれやれだと呆れていたのだが、その様子に気付く者は誰もいなかった。