第3章 迷走
キバナはが食べ終わるまで待っていてくれた。
追加でカスタードクリームのデニッシュを頼んでいたが、それを食べ終える頃にやっとのキッシュがお皿から消えた。
(・・・んーやっぱ無理なんじゃねーの、これ?)
キバナはあの日が逃げた理由を知っていた。
が逃走してすぐにタワー内に居るダンデに理由を聞きに行けば、珍しく気落ちしたダンデが苦笑いで事の詳細を話してくれたのを思い出した。
「手を握った・・・」
「そうなんだ、彼女にぜひ出場してもらおうとつい」
「それでビックリして逃げられたと」
「・・・カントー出身らしいんだ、あまりこういうことには慣れていないとローズ委員長に言われたよ。でも推薦状については考えてくれると言ってくれた」
「へー(絶対その場凌ぎで言ったっぽいけどな・・・)。チャンピオンダンデでも逃げられるってことあるんだな。なんか逆に俺さま安心したわ」
「酷いぞ、キバナ」
「悪いって。でも滅多にそんなお前の顔拝めないから"つい"な」
「・・・」
キバナは少しからかってやろうと、ダンデの反応を見ながら話せば、案の定ムスっと少し拗ねた顔をしたダンデがいた。
いつもは堂々と、チャンピオンの顔をしているこの男もこんな顔ができたんだなとキバナはどこかホッとした。
だがそれと同時に、ダンデに期待されているのことが少し気に食わないとキバナは思った。
(ライバルの俺様を無視して戦ってみてーのかよ)
どうしても勝ちたいのに勝てない相手が隣にいる。
だが隣にいるダンデの目に写っているのは自分じゃなくて、たまたま遠くでバトルを見た相手。
のバトルを見たのは自分もダンデも一回だけのはず。なのにダンデは彼女に推薦状を渡そうとしていた。
(どんなに強いか分かんねーけど、俺さまの方が強いて証明してぇ)
悔しいと思う反面、ダンデが興味を持つと戦ってみたくなった。
「・・・そいつ、考えてくれるといいな」
「そうだな、いい返事が聞けるといいんだが・・・」
「セクハラしちまったからな」
「うっ・・・今日の君は意地悪だ」
「はは、冗談だって」