第3章 くじら
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とりあえずの言葉で穴を埋めるようなことはしたくない。
多分それは研磨くんも一緒。
銭湯までの残りの道を、ゆっくりとゆっくりと歩いた。
お風呂入ってる間も、待っててくれるって。
でもゆっくり入ってきてね、って言ってくれて。
遠慮なく、ほどほどにゆっくり入った。
お風呂ってすごいなって思う。ほんと。
何かが確かに流れ落ちる。汗や汚れだけではない、何かが。
暖簾をくぐってロビーに出ると、
研磨くんはいつもの猫背でゲームをしてる。
髪の毛はゆるっとした小さなお団子。
もちろん、前髪?にあたる部分は結ばずに残してて。
愛おしい愛おしい人。
どうしてこんなに大好きな人が、
わたしをこんなにすきでいてくれるんだろう。
奇跡としか思えない。
『研磨くん、お待たせ』
「…ん。 あの、さ。 穂波」
『…ん?』
「りんごジュース飲まない?パックのやつ売り切れてたから、瓶のしかなくて」
『あ、うん!一緒に飲も。買ってくるね』
立ってるついでにさくっとそのまま、瓶のりんごジュースを。
蛍くんといるときにも飲んだなぁとか思いながら。
『はいどうぞ』
「…ん、ありがと」
紙の蓋の風情がいいからそのまま渡した。
研磨くんは輪ゴムで止められたビニールを外してそれから紙蓋を外す。
「…ん、先飲んだら?」
『えっ、いいよ、研磨くんに先に飲んで欲しい』
「…ん、じゃあそうする」
ごくごく、と小さな音を立ててりんごジュースが研磨くんの身体に入ってく。
なんだかわたしはりんごジュースの気持ちになってほくほく、ほわほわしてくる。
「…あ、うま。 はい、穂波」
『うん、ありがとう』
「………」
『あぁ〜、やっぱり美味しい。牛乳瓶のりんごジュース』
「うん、飲み口が厚いのがいい」
『ね!ね!わたしもそう思う!』
本当に同じように思うので、若干興奮気味でそう伝えると、
研磨くんは優しい目をして小さくふっと笑った。
胸がきゅんとした。