第16章 釘
ー侑sideー
なんでやろなー、
刺された釘が痛いし怖いしでも同時に気持ち良い。
やから無理に抜けへん。
せめて折ることもできん。
存在を無視することもできん。
おかげで今できる限りの楽しくて幸せな時間、
穂波ちゃんと過ごせたからええんやけど!
穂波ちゃんも幸せって思ってくれたみたいやし。
顔映ってない方の動画あげてもええか聞いたらええよ言ってくれたし。
しかもそれ俺、穂波ちゃんだけやなくって研磨くんにも許可取ってるからな?
なんやおかしない?って思うけど、
これがなんやろ、俺にとっての今の自然なんやって。
やから苦痛でも窮屈でもない、ほんまに自然な流れ。
正直すぐにでも会いたいくらいやけど、
でもかなり充電できた感じがある。
今までが今までな距離感やったから、
会えん時間もこの距離も、なんともない気もする。
そう思うと同じ高校で出会って、
実家も割と近所らしいし、
実家出てから数ヶ月やけど同棲もしとって、
あんだけずっとくっついとったのが
いきなり会える時間が減って
そこにある距離もめっちゃ広がってって状況で、
通常運転できとるのすごいよなぁって他人事のように思ってまう。
いや他人事やけど。
でもあかんわ、俺は。
あんな風に一緒の時間過ごしてまったが最後、
研磨くんみたいには絶対におれへん。
俺と研磨くん以外の男が近付くのは容認できんわーって思う。
いうても目に見える範囲でもサムとかおるしな、
研磨くんがええって言ったら俺が何言っても意味ないんやけど。
でも嫌やなって思うし…
ていうか研磨くん、俺のこと知り合いって言った!
友達って言ってくれへんかった!
便宜上、ってやつやとは思うけどでもなんかショックなんやけど!
まぁ、ええ。
さっきも言ったけど、研磨くんに刺された釘ってなんやろ…
勲章にも思えてくるんやって。
やから、実際穂波ちゃんと過ごした時間と、
研磨くんに刺された釘だけで俺、勇者気分。
目の前のことにちゃんと取り組める力湧いてくんねん。
やから…
結局…
2人して沼。
ここは俺と穂波ちゃんのハッピーエンドでもええくらいなのに、なんなん。