第9章 春高!
「ヘイヘイヘェーイ!日向ヘェーイ!」
めっちゃ聞き覚えのある声がして、人混みから木兎さんが躍り出てくる
「来たなぁ〜オイ!俺の一番弟子よ〜」
そう言って翔陽をバンバンと叩くと、周りのギャラリーがざわつく
「木兎だ!梟谷の木兎!」
「何かオーラあるよな」
「弟子ってあのキョドリチビ何者?」
その様子を微笑ましく見てると、木兎さんとバチっと目が合う
嫌な予感が…
「ヘェェーイ!歩じゃねぇか〜!会いたかったぞ〜!」
そう言いながら近づいてきた木兎さんは、両手で私の腰を掴んで空中に持ち上げる
「ちょっ!何するんですかっ!」
「え?再会のハグ?」
「ハグちゃうでしょ!持ち上げてるし!」
ギャラリーがさっきの倍に増えて、ザワザワし出す
「え?!あれ木兎の彼女?!」
「へぇ〜さすが一流選手は、彼女も美人なんだな」
「でもあの子他校のジャージ着てね?!」
「ちょ、めっちゃ見られてますから!ほんま降ろしてください」
足をバタバタさせるけど
「やだね」
と言われ、取り合ってもらえない
「木兎さん、歩ちゃんが困ってます。あと…月島が殺し屋みたいな目で木兎さんを見てます」
赤葦さんが言うと、木兎さんはツッキーの方を見ながらニヤニヤして
「わははは!ツッキー!歩は、このままいただいていくぞ!」
と言う
ほんまやめて
公衆の面前で一体何が執り行われてるん…
「僕に言われても…僕のじゃないんで」
喧騒の中
ボソッと放ったツッキーの言葉が
どれだけの人の耳に聞こえたかは分からないけど
少なくとも、私の耳にはハッキリと聞こえた
ああ
ツッキーはもう…私のこと
嫌になったんかな
『お待たせいたしました
春の高校バレー、全日本バレーボール高等学校選手権大会
開会式を行います』
アナウンスが流れると、喧騒がピタリと止む
選手たちの顔つきが変わり、皆アリーナへと足を進める
木兎さんにやっと解放され、乱れたジャージを直してると
「月島と何かあったの?」
近づいてきた赤葦さんが心配そうに訊ねる
「いや…今はそんな場合じゃないですから」
努めて笑顔を作ると、赤葦さんは困ったような表情をして
「また連絡する」
そう耳元で言って去っていった