第1章 お話。
「先輩」
「んー?」
俺は今までにない、真剣な表情で先輩を見つめる。
その視線を受けても、先輩はいつもの表情を崩さない。
…いつでも余裕だな、この先輩は。
でも、俺の気持ち伝えたら、この余裕の表情が崩れるかも。
それは、見てみたいな、なんて。
「俺、ずっと先輩の事…」
「んー」
「好きでした」
意を決してその言葉を吐く。
先輩は目を丸くして、俺の顔を見る。
おぉ、こんな表情もするんだ。
なんて思ってまじまじと見ていると。
「…ん?好き、でした?私のこと好きだったの?」
「え?あ、はい…」
俺の顔にずいっと顔を近づけて聞いてくる。
なんだなんだなんだ?
「"だった"の?今は好きじゃないの?」
「え…?」
先輩の言う言葉が瞬時に理解できず、真っ白な頭で考える。
「そっかー今は私のこと好きじゃないのかー残念だなぁー」
「え…え?ちょ、ちょっとまっ、先輩…」
「考える時間を5秒あげよう!ごー、よーん、さーん…」
「わ、わわ、すいませんすいません間違えました、今も好きです!ずっと好きです!」
俺は慌てながら自分の言った事を訂正する。
すると、先輩は満足そうに笑った。
「うむ、よろしい!玉、私も好きだよ!」
そういって笑う先輩の表情は、今までに見たことの無いくらい明るい、太陽のような笑顔だった。
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「たまー教科書貸してー」
「ん?あぁ、いいよー」
「…そういえば最近そのヘアゴムばっかしてるよな、前髪のやつ」
「ん?あぁ、これ?」
「なに、お気に入りなの?」
「そう、彼女にもらったんだ」
そう言って笑う俺の笑顔は、きっと満面の笑みに違いない。
END