第5章 Episode:05
そして、混乱状態の私の口から出た言葉は―。
「な、くし、ちゃったの……」
「え……」
いつもキリッとしている瞳が、開いて私を見る。
痛い。痛いよ。
ズキズキ、身体が、胸が、心が。
「も、貰ったペンダント…失くし、ちゃったの。今まで探してたんだけど、どうしても見つからなくて……」
卑怯な嘘に嘘が重なる。
野薔薇ちゃん、なんて言うだろう。震えにも似た鼓動を感じながら、長い前髪の間から恐る恐る野薔薇ちゃんの方を見やると。
「……そう」
ふいっと逸らされた、目。
それだけ、それだけの動作だったのに…私の心が、何か鋭いものに貫かれた気がした。
「っ、ご、ごめん!もう一回探してくる、今日は帰るね!」
「!?ちょ、…!」
悲鳴を上げる身体を無視して走り出そうとしたけど、野薔薇ちゃんがそれを許してくれなくて。
野薔薇ちゃんの綺麗な手が、私の腕を掴む。
すぐそこまで込み上げてきている涙を零れないように我慢するのに精一杯で、離して、と言葉にすることも出来ない。
だから、咄嗟に振り返った。
「……っ」
「………」
その反動で髪の毛が乱れ、初めて前髪越しじゃない野薔薇ちゃんの顔を見る。
まともに露になった私の顔を見て野薔薇ちゃんはひどく驚いたような表情をしていたけど、瞬間何故か緩んだ力に、私は野薔薇ちゃんの手からするりと抜け出して、精一杯のスピードでその場から逃げ出した。
どんな時でも、温かくて真っすぐな眼差しで私を見つめてくれた野薔薇ちゃん。
野薔薇ちゃん、野薔薇ちゃんだけだった。
そんなやさしいあの人に、目を逸らされた。
たったそれだけのことなのに、こんなにも胸が痛い。
散々嬲られた身体よりも、ずっとずっと、痛い。
野薔薇ちゃんが視界から居なくなった途端に溢れ出した涙のせいなのか、世界の全てが不鮮明にぼやけてしまったような感覚に陥った。
*