第15章 かぐや姫と姫さんのお茶会
「___で、これが夕餉後に飲む薬です。副作用はありませんが、もし体に以上があったら言ってください」
「助かった」
華音は今日のうちにつぐみの病の診断と治療薬作りを行い、つぐみにした説明と同じことを陽臣にも伝えた。
「じゃあお前の番だな。話って?」
「光秀どののことなんですが___」
華音は言った。
光秀は秘密ごとが多く、本心をほとんど他者に口にしないこと。
一人の人間として気になるということ。
噂は信用できないから陽臣から聞きたかったこと。
「……彼奴がああなったのは、半分俺のせいでもあるんだよなぁ」
「……?」
「こっちの話だ」
ここだけの話、陽臣は華音のみならず、織田軍の、ひいてはこの日ノ本全土の情報を網羅している。
方法は極秘だし誰にも教える気はない。
故に、光秀が華音の指南役をしているのも知っているし、光秀本人がその立場を存外気に入っていることも容易に想像できた。
「お前はどうなんだ?噂を聞いて何を思った?日吉丸とは正反対で、吉法師への忠誠心が見られない奴を信用できないと思ったか?」
「?いいえ、逆です」
心底意味がわからないと言わんばかりに華音は目をぱちくりさせる。
「__、_」
「………!」
華音の光秀への思いを聞き、その言葉に陽臣は珍しく目を瞬いた。
華音の紡ぐ言葉は、あまりにも真摯でひたむきで、真っ直ぐだったからだ。
人間の暗いところを現代でも今の時代でも見ているはずなのに、真っ直ぐな言葉を本心から口にできる。
そんな人間がこの世にいたのかと。
それも、人間を恨む月の一族の残滓の血を継ぐ者に。
「…お前、ほんとに継国か?」
「……それは、貴方が一番良く判るのでは?」
華音は皮肉げに微笑んだ。
その時、部屋の外からの風が華音の髪を揺らし、結んでいた髪紐がぷつりと切れた。
はらりと落ちた黒髪は腰まで長く、その姿は姫そのもの。
その姿に陽臣は惹かれない。
男装で誤魔化していた中で、一瞬だけ垣間見えた己と同じ顔を、美しいと他人事に思えど惹かれることは一生ない。
だからこそ、自分と同じ薄っぺらい美しさを持つ少女がいつか、誰かへの愛しいという思いが成就されることを心から願った。