第14章 姫さん、特訓する
「華音、少しいいか」
「どうぞ」
光秀と、途中から九兵衛から日が暮れるまで馬の指南を受け、自室でストレッチをしている途中で襖の向こうから秀吉の声がした。
「悪いな、最近お前に構ってやれてなくて」
「いえ、三成くんが持ってきてくれた差し入れのお茶を頂きました。ありがとうございました」
「どういたしまして。そんなことより……光秀に困らされてることはないか? いびられたり、ひどい目に遭ったりしてないか?」
「見ての通りまだ五体満足ですよ」
「今の言葉であいつがどれだけお前に無茶させてるかだいたいわかった」
華音は表面上はけろっとしているが、光秀の指導はなかなか厳しい。
まともな人間は教え子に忍者と二対一でデスマッチなどさせない。
「…ですが、確実に“昨日”の自分より“今日”の自分の方が強くなっていると実感します。そういうのは好きです」
「…そうか」
秀吉は華音の頭にぽんと手を置いて優しく撫でた。
条件反射で華音は猫のように目を僅かに細める。
「何かあればすぐ俺に言えよ。力づくでもあいつをお前から引き離すからな」
顔は笑っているが目は全く笑っていなかった。
思わず華音は、信用ないですねと呟く。
「…できることなら、信用したいんだけどな」
「……できないのですか?」
「腹の底をさらせと何度言っても、のらりくらりとかわされる。本音を見せない人間を俺は信じられない。華音も油断するなよ。あいつには秘密が多すぎる」
「………」
秀吉の言葉に、なんだか華音の方も耳が痛くなってきた。
秘密というなら継国家も多い。
なんせかぐや姫の存在すら眉唾物なのだから。
「あいつがどんな人間で、どんな本音を隠してやがるか、一度頭の中を覗いてみたいもんだ」
「覗いたら覗いたらで、火傷しそうですが」
「…確かに。火傷どころか全身の八割が焼けただれそうだな」
「軟膏作っておきましょうか」
しかし、光秀の多い秘密事に全く興味がないわけではない。
そこで華音は、継国家のくだりである人物を思い出した。
身内に一人、光秀をよく知る人物がいたと。