第13章 姫さんとネタ集
【政宗の診察後】
「ついでに体にどこか悪いところないか診ますよ。上だけでいいので脱いでください」
「真っ昼間から脱がせるとはやらしー…」
「脱げ」
「ハイ」
きゅっと眼帯を結び直した政宗はいそいそと帯を緩めた。
小十郎と常長の目には嫁の尻に敷かれる男に見えたが、主のことなので何も言わないことにした。
最近出来た傷を消毒し、清潔な包帯を巻き付けている途中、ふと華音はある一点を見つめた。
「政宗どの」
「ん?」
「その胸の傷、重傷でしたか」
「…あーどうだったか…」
政宗の胸には一際大きな傷痕があった。
しかし武士というのは生傷が絶えないため、政宗自身その傷が酷かったのはなんとなく記憶に残ってはいるが、いつのものなのかは曖昧だ。
華音は表情は分かりづらいが目は分かり易い。
黒曜石の瞳には心配の色が浮かんでいた。
それを見た政宗は華音の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「お前がこうして診てくれてたら、痕にはならなかったかもな」
政宗はどうしてか、華音相手に嘘はつけない。
“心配するな”とか、“大丈夫だ”とか無責任なことが言えない。
華音には、ちゃんと心配してほしかったから。
「それにな、傷痕のある男はもてるぞ」
「どこの統計ですか」
「まあもててからじゃないと傷痕の披露は出来ないが」
「全然駄目じゃないですか」
冗談なのか本当なのかわからないふざけた話に華音は口元を緩める。
「私は好きですよ。戦場の傷は勲章ですから」
「は」
華音からの唐突な言葉に政宗は頭が追いつかなかった。
「小十郎どのと常長どののも診ますよ」
「私は大丈夫です」
「俺も今は問題ありません」
「そうですか。では私は失礼します」
華音は三人にぺこりと頭を下げ、部屋を出て行った。
部屋の中にいる男三人は三者三様で、小十郎と常長の視線の先には片手で顔を覆う主の姿。
「…御館様、大丈夫ですか」
「……しばらく一人にしてくれ」
「「……御意」」
よもや自分達の主が一人の女に振り回される時が来るとはなぁ、と政宗の家臣二人はしみじみと思った。