第11章 姫さん、再会する
特に隠す必要はないと判断した華音は、佐助の名前以外は正直に話した。
「この男達に襲われかけたのですが、助けが来てくれたので大事ないです」
「襲われかけた!?助けって誰だ!?」
「いつかの時に話した私の同郷人です。人前に出るのは好まないので、秀吉どのとはすれ違いでここを出ました。ちゃんとお礼は言いましたよ」
「…ああ、あの猿飛って奴か」
「はい」
華音は、信長や秀吉達には猿飛という同郷人としか言っていない。
それは意図的であった。
何故敢えて自分が呼んでいる佐助ではないのかというと、それは謙信や信玄、幸村も彼を佐助と呼んでいるからだ。
もし織田軍側に佐助と言っていたら、華音が敵の家臣と通じている事実がばれる可能性が高かった。
そしてこれは予想だが、華音が信長の寵姫ではないという事実はまだ佐助と幸村しか知らず、二人は誰にも話していない。
そうである以上、華音が佐助について決定的なことを言わないのは義理だった。
「とにかく無事で良かった」
華音の姿を見て一安心した秀吉。
彼女が行方不明になってから殺気立っていた信長達のことを思い浮かべて、よし帰ろうと思った。
「帰るぞ、華音」
「(“帰る”)……はい」
秀吉の何気ない言葉に何故か心が温かくなった華音は、自然と口角が上がっていた。
しかし、秀吉は後ろを振り向いていたので華音の笑顔が見えていなかった。
一部始終を見ていた空臣は、ニヤリと笑って秀吉の方へ早足で向かう。
「秀吉さん、今あの人笑ってたよ」
「何!?」
咄嗟に華音の方を向いたが時すでに遅し。
笑顔から真顔に戻っていた。
芝居でもない限り、彼女の形状記憶表情筋を緩めるのは至難の業である。
「華音、見てなかったからもう一度笑ってくれ」
「何言ってるんですか。私はいつでもにっこり笑顔でしょう」
「いや、どちらかというとにっかり青江に近い鋭さがある」
「喧嘩売ってます?」
秀吉が初めて華音の笑顔を見るのはもう少し先になった。