第10章 絡みついた刻の糸は、月の国の禁忌に触れる
かぐや姫はその美しさから、天女とも言われた。
信玄はだんだんと話の先が見えてきたが、あまりにも信じがたいことなので、謙信の言葉を聞くまで考えないことにした。
「かぐや姫には孫がいた。正統な月の姫である娘と、人間の男の間に生まれた姫だ」
謙信は言う。
当時、月の姫君を妻にするのは、政治的に有利に働くと。
故にかぐや姫の娘や孫が権力者と婚姻を結ぶのは、不思議ではなかったことだと。
「そして……」
かぐや姫が実在したのなら、何故今まで噂にもならなかったのか。
不老不死なら、理論上かぐや姫は今でも生きていることになる。
かぐや姫以外の月の国の者達もだ。
「その孫の姫は、月の国を滅ぼして一族との縁を断ち切った」
浮かんだ疑問は、謙信の言葉で消え去った。
「は…!?何でまたそんなことを」
「俺だって大雑把にしか知らない。あの人は頑なに理由を話さなかった」
いよいよわけがわからないと言った表情で幸村は声を上げる。
そもそも、かぐや姫が実在したこと自体が信じられないことなのに。
「月の一族の血が無くなった孫の姫はただの人間になり、当時の帝の甥にあたる親王と結婚した」
結婚した後に思い浮かぶのは、夫婦の間に生まれた子供である。
もし、その子供が子孫を作り、今この時代まで続いているとしたら。
「あの名は“月の国”から由来されたと言われている」
「……まさか、謙信様」
天女と言われることを嫌悪していた、美しい男と美しい少女。
もし、その“天女”がかぐや姫のことを指しているとしたら。
彼らがかぐや姫を嫌う理由が、簡単には切れない因縁がある故だとしたら全ての辻褄が合う。
「継国家はその末裔の一族。そして、継国陽臣はかぐや姫の先祖返りだ」