第2章 姫さん、出陣する
「世話役って、私は具体的に何をすれば良いのでしょうか」
「貴様、俺の馬に乗っておいて言う事がそれか」
「馬に乗るのが人生で二回目なので」
のんびりした会話に似合わず、信長は華音を馬に乗せて軍を率いて西へ向かっていた。
信長暗殺の報せを受けた傘下の小国の大名が反旗を翻したとのこと。
ちなみに華音の今の格好は袴姿である。
何を思ったのか、信長は華音も連れて行くと言った。
秀吉が難色を示す一方、華音は二つ条件を出して了承した。
一つ目は、動きやすい袴姿で行くこと。
長い黒髪を一つに纏めて男物の袴を着た華音は、美しく凛々しい面立ちと相まって非常に似合っていた。
余談だが、城を出る途中で何人かの女中が見惚れていた。
二つ目は、華音を怪我人、特に重傷者が多く集まる救護所に置くこと。
これには流石の彼らも驚いていた。
「懸念があるなら監視を付けても別に構いません。手伝わせますが」
「いや、貴様のような小娘に医術の心得があることに驚いた」
「祖父母が名医だったので、叩き込まれました。勿論自分の意思で」
「ほう」
信長は会話を進めながら、華音の人となりを徐々に理解していった。
初めて会った時もそうだったが、何事にも物怖じしない胆力。
年齢や性別の不利もまるで気にしない志と、それを実行せんとする意思の強さ。
良い意味で、女とは思えない性根に益々興味が湧いた。
「…世話役とは何をするか、だったか。特にこれと言ってまだ決めてはおらんが、偶に夜伽の相手でも命じるか」
「あまり歌ったことがないのですが、まあ善処しましょう」
「誰が子守唄を歌えと言った」