第7章 刻(とき)の糸は絡みつく
「なぁ佐助、華音はお前の幼馴染なんだろ?」
「うーん、出身地が同じってだけで交流はそんなになかったよ」
「え、あんな仲良さそうだったのにか」
「波長がね、合ったんだよ」
「何言ってんだお前」
安土城城下にて、上杉謙信が家臣の猿飛佐助と、武田信玄が家臣の真田幸村は潜入という名の店出しをしていた。
「華音さんがどうかしたの?」
「そいつって織田ゆかりの姫なんだろ?」
「表向きはね」
「?何だそれ」
「本能寺の夜に会った時、華音さんが信長公を助けただろう?その時信長公に気に入られて身分を与えられたんだよ。恩賞も含めて」
「はぁ…!?そんなの俺に話していいのかよ」
「大丈夫。華音さん本人から許可は取った」
抜かり無いなあの女、と幸村は思った。
幸村の主は武田信玄。
華音の居候とする安土城の城主は織田信長。
必然的に幸村と華音の関係も名目上は悪いものなのに、そう簡単に事情を話していいのか。
訝しげな顔をする幸村に、佐助は華音から言われたことを言う。
「“いずれ知られるのなら、変に誤解されて鵜呑みにされるよりは自分から言った方がいい”って。それと、“このことを上杉謙信公や武田信玄公に伝えるかは二人に判断を委ねる”とも」
「……性格悪いなあの女」
情報のねじ曲げようによっては、信長らとの情勢を傾けることができる。
その命運とも言えるものの引き金を佐助と幸村に平気で渡すのだから、華音はよほどの阿呆か性格が悪すぎるのか、おそらく後者だ。
「…そういや佐助、この前噂で聞いたんだが」
「何?」
「このあたりをうろちょろして、“安土の姫”について訊き回っているやつがいるとか」
「……!どんな人?」
「確か…元服前後のガキで、黒髪に___
「こんにちは」
「「!!!」」
突然、誰もいないはずだったところから声が聞こえて二人は身構えた。
敵領地の城下で抜刀するわけにはいかないので、幸村は刀の柄に手を添え、佐助は懐からいつでも暗器を出せる体勢で。
「そんなに怖い顔しないでよお兄さん達。訊きたいことがあるだけさ」
“元服前後の”少年にも見える“黒髪”の彼は、“天女と見紛うほど美しい顔”に無邪気な笑みを浮かべた。