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【イケメン戦国】白衣の戦姫

第1章 姫さん、起床する


本能寺で奇襲に遭った信長を助けたかと思えば、自分達の前から走り去った奇怪な小娘。

光秀の華音に対する第一印象はそれだった。
否、あの場にいたほとんどの人間がそう思っただろう。

去ったならば放っておけば良かったものの、信長は気に入ったと言って秀吉と政宗に追跡を命じた。
呆気なく捕まり再び城で会い見えると、華音の顔は無表情だが目が不本意を物語っていた。

女中に格好を整えさせ、改めて信長を始めとする武将達と顔合わせをした。
そこで信長は、織田ゆかりの姫という肩書きで華音にこの城に仕えることを命じた。
華音は数秒考える様子を見せ、やがて頷いて了承した。
元々気が強い性格なのか、華音は信長の威圧を前にしても一切の物怖じも見せなかった。
その姿に武将達は一種の感心を覚えた。

あの第六天魔王に畏怖しない肝の据わった小娘。

第二印象はそれだった。


華音が信長の、ひいては織田軍のそばに身を置く以上、間違いがあってからでは遅い。
間諜の疑いも自分は勿論彼らの中にもある。

しかしそれは、華音と過ごしている中で見極めれば良いことである。
そんな気持ちで迎えた朝。
夜明け前に既に準備は整えている光秀は、ふと気配を感じて井戸の方へ向かった。




___静か、否、穏やかだった。

彼女の姿を見て、穏やかという言葉が光秀の頭を埋めた。
きっと彼女は、世界が終わる日でさえもこのような朝を迎えるだろうと、そう錯覚するような感覚さえした。
そして何より不思議だったのは、今感じたものを光秀は“知っている”ことだった。

華音は井戸から汲んだ水でぱしゃぱしゃと顔を洗っていた。
持っていた手拭いで顔を拭いたところで光秀ははっと気がつき、声をかける。

顔を上げた華音は、黒曜石の瞳で光秀の姿を映した。



「おはようございます、光秀どの」



___十数年の間に満たされることのなかった渇望の片鱗が目の前にあることに、この時の光秀はまだ確信していなかった。
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