第30章 名も無き戦い
華音が攫われたと聞いてすぐ、光秀と佐助、幸村は足跡を追った。
他の3人にはいつでも出陣できる備えを頼んだ。
「義昭様に華音の存在がばれていたか…思ったより早かったな」
「自分の女が攫われたってのに随分余裕じゃねーか」
「ここで俺が冷静さを欠いたらそれこそ殺される。華音に」
「華音に……」
「それよりも……」
光秀は華音が攫われたと思われる現場の近辺で、見覚えのある草履を見つけた。
それもただの草履ではなく、山道を登った際の補強として薬草が巻かれたものだ。
彼女はこれを“強烈な薬草”だとも“毒”だとも言っていた。
薬は強すぎれば毒となるのは、華音や薬学に精通する家康からよく聞かされていた。
「わざわざ脱ぎにくい方を目印にしたということは…華音は毒を盛られた可能性がある」
「毒!?」
「光秀さん、幸村。少し離れたところで血のついた針を見つけました。おそらく毒針です」
「…たった今確定になってしまったな」
幸村が驚きと怒りで声を荒げる。
罪のない女1人相手に毒を使って攫うなど言語道断。
ましてや、自分達に対する人質という理由だけで。
「光秀さん、そもそも華音さんに…継国の人間に毒は効くんですか?」
「継国は…身体が丈夫なだけだ。大抵の毒は普通の人間と効果は同じなはずだ」
「そんな……」
つまり、今の華音はほぼ確実に身動きがとれない状態だということ。
いつかのように、腕を縛られた状態でも男を蹴り飛ばせる膂力を出すのは難しいだろう。
だが皮肉にも華音が攫われたおかげで、義昭のいる場所の特定ができた。
「佐助殿と華音の“故郷”で華音の解毒をしたいところだがおそらく時間がかかり過ぎる。本人から直接奪うとしよう」
毒に侵された華音を助ける手段は三つ。
一つ、500年後の未来へ帰り、そこの医療技術を頼ること。
二つ、華音本人に解毒薬の調合をしてもらうこと。
そして三つ、毒を盛った本人から解毒薬を奪取すること。
「今夜、出陣を決行する」