第29章 姫さんと復讐鬼と悪の華
人も兵力も確保できたところで、次に必要なのは兵糧や武器、武具や馬などの確保と数の把握だ。
元就、義元、顕如の部下達が運び込むそれらを光秀、佐助、幸村が確認し、華音が書き留める。
戦ほどの規模ではないが、それでも“それなり”な量なので華音の墨の消費も激しい。
華音がこの時代に飛ばされてからまだ数ヶ月。
字の読み書きは一応できるが、書くスピードはかなり遅い。
油断すると横書きになる上に誰も読めなくなってしまうため、かなり神経を削るのだ。
今は顕如からの報告を書き留めているが、華音に合わせてゆっくり喋る顕如の優しさが華音にとっては申し訳ない。
「___以上だ」
「手数をかけました、顕如どの。私は字を適当に書くと佐助くんしか解読できなくなるんです」
「解読…」
自分で言うのも虚しいが事実だった。
身近な人間で練習しようにも、安土城の武将達は達筆過ぎて逆に参考にならないらしい。
いつの間にかお茶も淹れてくれていた。
休みなさいと目線で促される。
こんなに優しい人がなぜ信長様の復讐をとも思ったが、今は考えないことにした。
「いただきます」
「…警戒心を持った方がいいぞ」
「持っていようがいまいが飲みますよ」
今華音を殺しても顕如側の得は少ない。
仮に致死量の毒が入っていたとしても華音はおそらく生き残る。
何より、この状態の顕如が何かしたとは思えない。
諸々の理由をふまえてそう言った華音は、顕如の目にはどう映っただろう。
「あの、お茶もですが、先程もゆっくり言ってくれてありがとうございました」
「……礼を言いたいのは私の方だ」
「?」
顕如は森蘭丸から、優しい女の子に命を助けてもらったと聞いていた。
蘭丸が顕如の手の者であることを知られるわけにはいかないゆえに、具体的なことは言えないが、相応の礼は返したかったのだ。
華音が織田軍寄りである手前、優しくすることしかできないが。
「……顕如どの。実は私も貴方に頭を下げなければならないことがあるのです」