第23章 二度目の本能寺
その後、あきらめ悪く反対する家臣たちを一喝し、義元率いる今川家の一団は、戦の騒ぎに紛れて姿を消した。
「勝負あったな」
そして、本能寺の火は消され、夜の静けさが戻ってきた。
将軍が見捨てて逃げた兵たちが、無残に倒れ伏している。
脈を測らずとも、助かる見込みがないことはすぐに分かった。
この戦は織田軍の勝ちだ。
皆の顔には、ほんの少しの安堵はあっても明るさはない。
こんなにも胸糞の悪い戦に勝っても、嬉しいと思うはずがなかった。
敵の大将は、状況が不利だと察した瞬間、何の躊躇いもなく味方を壁にして逃げたのだから。
華音は重傷者の手当てを、皆は兵たちの弔いを終えた後、信長は傷だらけの皆の顔を見渡した。
「___大儀であった」
「「はっ」」
「政宗、思ったより到着が遅かったな」
「再会して第一声がそれか。相変わらず口の減らない男だ。留守番を任せた家康と三成が、自分たちも行くとごねて手間取ったんだよ。お前の口車に乗って追ってきてやったんだ。感謝しろ」
「無論、感謝している。お前にも、信長様にも、秀吉にも。……華音にもな」
「御託はいらねえ」
怒りをあらわにした秀吉が、光秀の肩を荒々しく掴んだ。
「光秀、お前には聞きたいことが山ほどある」
「悪いが、明日にしてもらえるか?」
「いつもみたいに有耶無耶にして誤魔化すつもりだろうが、今回ばかりは……!」
「そうじゃない。少しばかり、疲れてな」
光秀は、食えない笑みを浮かべてつぶやいた直後、体がぐらりと傾いた。
「!?」
「「光秀!」」
とっさにそれを抱きとめたのは、心配そうで苦しそうな顔をする華音だった。
「……当たり前だ。あれだけ無茶をしたのだから」
連日不眠不休で動き回り、さらには雨にも被った。
体がずっと悲鳴を上げていただろうに、最後の最後で倒れたのは、せめてもの防衛本能だろう。
「どなたか。肩、貸していただけますか」
一夜に起きた、織田軍と将軍との戦いは、月も太陽も見えぬうちに幕を下ろした。