第22章 水色桔梗と鈴の祈り
その日の深夜、城内に突然、鐘の音が鳴り渡った。
(今のはまさか……!)
花音は廊下に出ると、すでにひどい騒ぎになっていた。
「おい起きろ、すぐに身支度を整えて集まれ!刀のある者はみな、総出で捜索に加われ!」
血相を変え、武装した家臣たちが外へと飛び出していく。
「花音……!そんなとこでぼさっとしてないで部屋に戻って」
「家康どの……何が起こっているんですか」
「……っ光秀さんが、脱獄した」
「……!!」
「あの人はやっぱり裏切り者だった……安土のほとんどの人間が、そう確信しただろうね。こうなるともう庇う手立てがない。捕まってしまえば、即座に斬り捨てだ」
いら立たしげな家康の口調は、頼むから見つかるなといいたげだ。
今、光秀が捕まってはいけない。
だがもし、誰かが手段を選ばずに光秀を捕まえようとしたら。
「………家康どの。私は、標的になる可能性はありますか」
「!」
花音だって家康達と捜しに行きたい。
だが頭はどこまでも冷静で、今自分が外に出たらどうなるかも考えていた。
例えば、光秀をあのような目にあわせた者達が、光秀をおびき出すために花音を人質に取る可能性。
「なんの手出しもさせないよ。花音は部屋にいて。どうなったかは、ちゃんと知らせるから」
「……はい」
ためらいがちに花音の髪をくしゃっと撫でると、家康は外へ飛び出していった。
皆が出払った静かな城内で、花音はただ夜明けを待つ。
その時、ガタリと窓が外側から開き、おぼろげな月の光が部屋を照らし出した。
「まだ起きていたか。夜更かしは身体に毒だぞ? 花音」
「……!!光秀どの」
つい先程まで、花音の頭を占領していた男が目の前に現れ、花音の瞳は瞬く。
顔に影を落としながら、光秀が窓枠に腰かける。
「……おいで。顔を、よく見せろ」
「……っはい」
花音は光秀に歩み寄ると、光秀は両腕で花音をかき抱いた。