第20章 狐の喜劇
「___華音、さっきお前が一緒にいた男、明智光秀だな?」
「……はい」
隠すのは無駄だろうと、華音は正直に答えた。
あと、どうかつむじにキスされたことは見られていませんようにとも思った。
「どーして安土の化け狐がお前を連れ回してるかは意味不明だけど、あいつの目的なら予想がついた。この国の大名が、信長を裏切ろうとしてる___違うか」
嘘を言っても通じないであろう幸村の目は、歴史に名を刻む武将の一人なのだと思わせた。
元より、華音は嘘をつくつもりはなかったが。
「……それを調べるために、この国に来ました」
「そして、限りなく黒に近いと判明したというわけか」
華音は肯定を示すように頷いた。
幸村と佐助の視線が、気だるげに幕開きを待つ『義昭様』へと注がれる。
「実は……織田軍の領地だけじゃなく、上杉武田の領地でも同じことが頻発してるそうなんだ」
「…それが、以前佐助くんが言っていた“ちょっとしたトラブル”?」
「ああ」
「力はねーけど家柄だけはご立派な大名どもが、影でコソコソ誰かと通じ始めてるって話だ」
華音の中で全てのピースが一つになった感触がした瞬間、鼓の音が舞台に響いた。
芝居の始まりだ。
「敵側のお前に話してやるのは、ここまでだ」
「俺たちは君と一緒に、明智光秀がどんな策略で謀反に対抗するか、この目で見届けさせてもらう」
「……ええ。是非見てほしい」
何が始まるのか華音にも分からない。
だが、どこか浮き立つような気持ちになる。
安土の化け狐が織りなす、一夜限りの喜劇に。