第19章 月の一族の本性
「__もう眠れ」
「……はい」
華音を引き離すと光秀はテキパキと布団を敷き、そこに華音を寝かせた。
濡れた手ぬぐいを用意して枕元に座り、華音の赤く腫れた目元にあてがう。
「おやすみ。華音、よい夢を」
「光秀どのも……おやすみなさい。
……ありがとう」
光秀は何も言わず、手拭いを取って華音の目を手のひらでそっと閉じ、しばらくそのまま触れていた。
久しく感じることのなかった安心に、華音は身を委ね、穏やかな眠りに落ちた。
穏やかな寝息を立てる華音を、光秀はまんじりともせず見守った。
安土では、華音はどんなことがあっても冷静さを失わず気丈に振る舞っていた。
全ての行動や言動は本心から来るものだった。
だがそれは、幼き頃からずっと理性という大きな膜で塗り固められているものだった。
今回華音は、義昭と呼ばれた男の無機物を見る目と言動で、覆い尽くされていた理性が剥がれ、継国家の、月の一族の狂気が垣間見えたのだ。
月明かりで変色する金色の瞳は継国家の者が狂気にのまれた証だと、ずっと昔に陽臣が言っていた。
それでも華音は狂気に勝った。
強い理性と光秀の言葉で、頭が殺意でいっぱいにならずに済んだ。
だから光秀は、華音は正しいと断言した。
しかし。
華音が殺意をおさめたからと言って。
華音が光秀の言葉で笑顔が戻ったからと言って。
華音の涙に、光秀が怒りを鎮めていい理由にはならない。
光秀は華音の目元から手を離し、ほんの一瞬だけ華音の唇に口付けると、おもむろに立ち上がった。
「さて。可愛い妻を泣かされた借りは、返さなくてはな」
光秀の両目が、闇の中で、冷たく鋭い光を放っていた。