第19章 月の一族の本性
「ようやく来たか、娘」
華音を待ち構えていたのは、先程の舞台のそばにいた例の大名と、華音の全身に嫌悪が走った男だった。
「何を呆けておる、義昭様にご挨拶せい!」
大名が男を義昭と言った時、華音はここに呼ばれた意味を理解した。
そして少しでも状況を己に有利に運ばせるため、大名に従うことにする。
「どうも」
「………」
義昭と呼ばれた男は華音に一瞥もくれず、つまらなそうに盃を傾けている。
特に腹は立たなかった。
予想の範疇だったからだ。
だから華音はわざと適当な挨拶をした。
大名はにやにやと笑いながら、値踏みするような視線を華音に向けた。
華音は敢えてそれを無視する。
「…茶の湯に付き合うようにと伺ったのですが」
「真に受けたのか? あはは、初心な娘よのう」
大名が、歯を見せて笑う。
「お前をわざわざ招いてやったのは、今宵、義昭様の夜伽の役目を命じるためだ」
やはりそうかと、華音は目を見開いて驚く“ふり”をした。
「義昭様、いかがでしょうか? この娘なら一夜のお相手に事足りるかと」
「……そうよのう」
「旅芸人の踊り子のようですが、眼鏡を外させ湯浴みをさせ着物を与えれば、まあ見られるようになりましょう」
「……ああ」
揉み手する大名に対し、義昭という男は気のない返事を繰り返している。
華音は事の行く末を見定め、何をするのが最善かを模索する。
まず最優先なのは、己が継国だと悟らせないことだ。
「見事お勤めを果たせたなら褒美を取らすぞ、娘。義昭様にふさわしい女子を探し村の者をかき集めたが、どうにも垢抜けなくてなあ。お前ならば丁度よい」
「…………」
義昭という男が、初めて華音を見た。
舞台上から投げられた視線と同じ、温度がなく静かで___道端の雑草でも見るような目で。
(……間違いない、同じだ)
気のせいではなかった。
“これ”は、かつての遺伝された記憶の片鱗。
かぐや姫や桜姫へ向けられた瞳と同じだった。