第17章 姫さんと狐の道中
「お前、舞はできるか」
「いえ全く」
この一言から特訓は始まった。
この時代には当然新幹線も電車も車もないため、馬での移動となる。
馬もずっと走っていれば疲れるし、夜は移動が困難だ。
よって何日か宿をとって休み休み行く必要がある。
問題の小国に行くまでの間、華音は踊り子という設定となるため、最低限型だけでも身につけるべきだと光秀から叩き込まれることとなった。
何がいけなかったかと言えば、“かぐや姫の先祖返りなら舞の才能もあるんじゃないか”という光秀の目論見がドンピシャで命中したこと。
華音も陽臣も、いくら心が月の一族を拒絶していようが、体は“そう”なのだ。
今更それを嘆くほど子供でもないから、負の感情は抱かないが。
「……よし、一通りやってみろ」
「はい」
特訓最後の日の夜。
明日には目的地に着くため、光秀に舞を教わるのはこれが最後だ。
華音は扇を持ち、光秀から教わった全てを昇華するように舞った。
短いような長いような時間が過ぎ、最後に扇が空を切る音がして終わりを告げた。
「………ふう」
表現のための長い羽織を脱いだ途端に、華音はぶわりと汗をかく。
舞っている間は決して疲れを見せないという点では満点だ。
「…ふむ。数日で仕込んだにしては上々だ」
「ありがとうございます」
「今度機会があれば信長様の前でも披露してみるか」
「嫌だ」
“遠慮します”や“結構です”ではなく、はっきり拒否できる華音は流石である。
「……まあ、遠からず俺が都合の悪い場所から離れる時に使わせてもらおうか」
「ものすごく嫌な予感がします」
「安心しろ、悪いようにはしない」
この出張が終わったらどこか安土以外の場所へ行こうかな、と逃走の計画を頭で立て始めた華音だった。