第3章 姫さんと独眼竜
「…誰か来ましたね」
「私が出ッぶ」
「華音様!?」
足音で誰かの来訪を告げた常長。
華音が出ようとしたところで、襖が開いて何かが華音の顔面に直撃した。
一瞬敵襲かと思ったが、この顔から感じるもふもふは敵ではない。
ならばこのもふもふは何なのか。
「こら照月」
「!御館様!」
「モゴモゴモゴ(政宗どの)」
「悪いな華音」
もふもふに向かって照月と呼ぶ声と、常長が御館様と呼んだことで相手が伊達政宗であることを確信した。
何故“確信”なのか、答えは簡単。
未だ照月というもふもふが華音の顔面に張り付いて視界が塞がっているからである。
政宗がそのもふもふを華音の顔からどかし、漸くもふもふの正体が分かる。
「…猫?いや虎?」
「ニャウ!」
「虎の照月だ」
子虎の照月は強引に政宗の腕から降りると、ぴょこんと華音の膝の上に乗った。
そして、撫でてと言わんばかりに華音を見上げる。
その通りに華音は撫でると、嬉しそうに尻尾を振って横たわった。
政宗は照月の様子に面食らった顔をする。
「人懐っこいですね」
「いや…普段は人が触れようとすると逃げることが多いはずなんだが。光秀とか」
「…そうですか」
何故、政宗は光秀を例に挙げたのかは訊かないことにした。
「政宗どの、照月が寝ました」
「うそ」
「本当」
華音の言う通り、照月はそのまま華音の膝の上で寝てしまった。
大して柔らかくもない(本人曰く)ところに気持ち良さそうに寝る照月を起こす気にはとてもではないがなれなかった。
まあ良いかと思い、政宗は常長の隣に座って華音と向き合った。
「常長が世話になった。改めて礼を言わせてくれ」
「ですから、私は医者として」
「ああ。お前にとっては当然のことだろう。だが、その当然のことで助かった者の一人が俺の家臣だった。だから、これは俺にとっての当然だ」
「…!」
そこで初めて、華音は自分が無意識に意固地になっていたことに気づいた。