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わたしは漁火

第8章 8



秋も大分深まった頃、有羽は家の前で、車に荷物を積み込んでいた。良正も一緒だった。

「荷物、少ないんだね。もっと乗せても大丈夫だよ?」
小さな段ボールを荷台に載せながら、良正はそう言った。

有羽は良正に誘われた通り、街で暮らすことに決めた。もう働き口も見つかっている。小さなアパートを借りた。いずれ良正と2人で住めるだけの所へ引っ越すだろうけども。

「私、あんまり物を持たないタイプなんだよね」
「確かに、昔からそうかもね」

私物は少なく、家具の類は越してから買えばよい、なら運送屋を頼むほどではないだろうということで、良正の車で引越しを済ませることになった。

家の中から有羽の父母が出てきて、「袋井くん、よろしくね」「これ食べてね」と、握手を交わしたり食べ物を与えたりと動き回った。
良正は子供のころから見知った相手で、しかも街に出た出世頭。両親としても悪い話ではなかったのだ。彼らは安堵と寂しさの入り混じった様子で若い2人を見つめては、あれもいるんじゃないか、これは済ませたかとせわしない。
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