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わたしは漁火

第4章 4



暑さもゆるやかになってきたある日、有羽はS市に向かう電車に乗っていた。近隣では1番の大都市だ。

「遊びに来ない?」
と有羽を誘ったのは、かつて高校の同級生だった男だ。名前は袋井良正。

有羽の地元は、小さな田舎町だ。そして地元の人間は地元に就職することが多い。その中で袋井は、S市まで出て行った数少ない人間だった。

有羽は、愛想はいい方だ。活発で、率直で、男女分け隔てなく友達を作った。そのため中学高校と、何度か男子から告白を受けたこともある。
だが有羽はその全てを断ってきた。
なぜか。彼女にはイカがいたから? いや、それだけが理由とは言い切れない。
素敵な男の子とデートに行きたい、ドラマみたいな恋がしたい、有羽にもそんな欲求はあった。むしろ、人一倍恋愛には憧れていた。
つまり、よく見知った近所の男と付き合うのはロマンがなさすぎてつまらない、と有羽には感じられたのだ。だから全ての告白を断ったのだ。

まあ、イカが居てくれるので精神的にも肉体的にも飢えていなかった、という点もあったろう。とにかくいつの間にか、同年代の中では「有羽を落とすのは無理ゲー」と言われるようになった。

それでも有羽を誘い続ける一途な男もいた。それが良正だった。
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