第24章 sprout 佐久早
「ほな、おーきに」
食堂の隣の[相談室]と書かれた部屋から、聞き覚えのある関西弁が聞こえてきた
俺はMSBYブラックジャッカルというVリーグのチームに所属している
今日の午前はチームの管理栄養士と健康相談が予定として組まれていた
今までは食堂のメニューなどを監督と相談して決めていたようだが、オフの日や家庭での食事、体調管理などについて個別面談するということになっていた
チームの管理栄養士ったって、今日まで見たこともなかったし…
相談室から出てきた宮侑と目が合う
「あ、臣くん相談今からなん〜?」
「ああ」
「そっかそっかー、ってか…」
侑が近づいてきて、声をワントーン落とすと
「ものすごい別嬪さんで、びびったわ」
そう俺に耳打ちしてくる
「お前…地元に彼女いるんだろ?」
「俺の彼女には勿論負けるけどな!臣くんにどうかと」
「大きなお世話だ」
そう言って侑の横を通り過ぎた
侑は俺と同い年で、高校の時から付き合っている彼女と今年から同棲し始めたらしい
シーズン中はほとんど会えないから、同じ家に暮らせるのは幸せだと言っていたが、俺からすれば他人と生活するなんて
考えただけでゾッとする
例えばそんな相手がいるとすれば、衛生観念がしっかりしていて清潔感があって…
ガチャ
「失礼します」
相談室の扉を開けて中に入ると、中は病院の診察室のような雰囲気だった
「あ、佐久早さんですか?ちょっと待ってくださいね」
白衣を着た女性が手を洗いながら、首だけをこちらに向ける
彼女の手元を注視していると、指の間はもちろん手首までしっかり洗って、極め付けは備え付けの爪ブラシで爪の中まで洗うと、ペーパータオルで手を拭いて、こちらに歩いてきた
「お待たせしました、ちょっとパソコン触ってたものですから」
パソコンってのは案外汚ない
きっとこの人は1人の面談が終わると、パソコンに面談内容を入力して、その都度手を洗っているのだろう
しかも洗った手をピッピッとかしたりしない
職業柄かもしれないが、かなり好感を持った
「どうぞ、おかけください」
そう俺に促して、自らも椅子に腰掛ける