第1章 collaboration
割れんばかりの拍手と歓声が
僕を現実の世界に引き戻した
袖に下がった後も
まだ全身がフワフワしていた
僕は
前を歩く彼女を走って追いかけた
「…待って!」
アンナは足を止めて振り向いた
「…君がリハで歌合わせをしなかった理由が…よく分かったよ…」
『……』
「……あの即興の感覚…最高だった。………ありがとう…」
アンナは少し驚いたような顔をした後
すぐに真顔に戻った
『……こちらこそ…』
吸い込まれそうな黒い瞳が
僕を真っ直ぐに見つめた
「……」
(…何か もっと会話を続けなくては…)
そう思った時
後ろから
スタッフが僕を呼ぶ声がした
アンナは口元だけで微笑むと
そのまま
控室へと行ってしまった
たった10分間のパフォーマンスだったが
この日の僕達のセッションは
後々まで語り継がれることとなった