第9章 そして…
◯ラミー賞銃撃事件は年月と共に風化し
悲劇の歌姫の記憶は次第に人々から忘れられていった
けれど僕達3人は
その後も時間の許す限りアンナを訪ね
声を掛け続けた
そしていつしか
彼女の部屋が僕達のたまり場のようになっていた
その夜も
いつものように仕事を終えた僕達は
真っ直ぐに屋敷へと向かった
階段を上がり
アンナの部屋のドアを開ける
「……アンナ………戻ったよ…」
「……ただいま……アンナ……」
「…アンナ〜…今日も疲れたぁ〜…」
呼吸器の音だけが繰り返されていた静かな部屋が
途端に賑やかになる
早速服を脱いで
日課の筋トレを始める健人と
それを横目に
ソファでゲームをする夏生
僕は付き添いの看護師に見守りの交代を申し出ると
ベッドの側の椅子に腰を下ろした
ここの所の僕は
次のミュージカルの台本を常に考えていた
この日もアンナに話し掛けながら
物語のストーリーを練っていった
「…アンナ……昨日の続きなんだけど………夏生と入れ替わりに健人を登場させた方がいいかな?………それとも…一度暗転して曲を流すか………その後の流れを考えると………んー……悩む所だな……………なぁ……アンナも一緒に考えてくれよ……………曲を流すとしたら…何がいい?…………アップテンポ………いや……シリアス系…か…………うーん……」
目を閉じて考え込む僕の傍で
ベッドに横たわるアンナの指先が
微かに動いた…
《 僕だけのDiVA end. 》